企業の法理順守と反社

内部統制システム上の統制活動

法務省などの「反社指針解説」(企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針に関する解説)において、社員・役員研修は、内部統制システム上の統制活動の一部として位置付けられている。このように、研修の実施は、内部統制システムの一環としてとらえられており、また、(指針に法的拘束力がないとはいえ)指針が取締役らの善管注意義務の判断に際して参考にされることがあり得る以上、企業や役員にとって、反社会的勢力(反社会勢力)対策の研修を実施することは、極めて重要である。

業務マニュアルの制定や法務部門の充実
取締役の責任を否定した裁判例

なお、カルテルに関するものではあるが、会社従業員が違法行為に関与したことに対する取締役の法令遵守(コンプライアンス)体制の構築義務違反の有無が争われた事案において、各種業務マニュアルの制定、法務部門の充実に加えて、従業員に対する法令遵守教育の実施を指摘して、取締役の責任を否定した裁判例がある。

研修の対象者・内容

研修を実施するといっても、単に役員及び従業員を集めて講演会・研修会を開けばよいというものではない。研修は、企業内における個々人の役職や経験等に応じた実践的かつ効果的なものでなければならない。

そこで、以下、企業内の役職に応じた研修の対象者、望ましい研修の内容について概観する。

経営陣(管理職を含む)

経営陣が反社会的勢力に断固として立ち向かう姿勢を率先して示すことができるか否かによって、組織全体の反社会的勢力に対する対応は大きく左右される。経営陣の中には、反社会的勢力と関係を持つことへの危機感が薄い者や、反社会的勢力を利用しようとする者さえ存在し得るが、企業がいったん反社会的勢力と関係を持つことになると、企業を存亡の危機に陥れることにもなりかねない。

研修の頻度は1年~2年に1回程度

そこで、経営陣に対しても、反社会的勢力との関係遮断の重要性を認識させるとともに反社会的勢力による被害防止のための定期的な研修を行う必要がある。 経営陣に対する研修は、反社会的勢力との関係を遮断することの重要性や失敗事例の紹介等、基本的な事項の確認を主な研修事項とすることが想定されるが、かかる研修は、就任時のみならず、就任後も定期的に行うべきであり、業種に応じて1年から2年に1回程度行うことが望ましい。

外部専門機関の講師(警察や顧問弁護士)

なお、企業内部の者を講師として研修を行った場合、講師が上司にあたる経営陣に対して忌憚のない講義を行うことが必ずしも容易でない場合も考えられることから、その場合には、警察や顧問弁護士、弁護士会(民暴委員会)等、外部専門機関の講師を積極的に取り入れることが効果的であると考えられる。

反社会的勢力対応部員

反社会的勢力対応部署の担当者(以下「反社会的勢力対応部員」という)は、反社会的勢力に対峙する専門部員である。また、反社会的勢力対応部員は、反社会的勢力への対応に関する当該企業の指針やマニュアルを作成し、これを社内での研修や反社会的勢力対応担当者を通じて社内各部署、及び支店・営業所に周知徹底させる職責を担っていることから、反社会的勢力対応部員への研修内容もこれらの職責に見合った実践的かつ専門的なものとする必要がある。

弁護士会のビデオ教材

具体的には、三重県警などの警察や暴追センター、特防連、各地の弁護士会等が提供している出版物やビデオ教材等を用いて反社会的勢力との関係を遮断することの重要性や失敗事例等、基本的な事項の確認をすることはもとより、関係法令や対応マニュアル等の確認、対応マニュアル等を踏まえたロールプレイング等、すぐに活用できる実践的要素をふんだんに盛り込む必要がある。

そして、研修の実施に際しては、三重県警などの警察や顧問弁護士、弁護士会(民暴委員会)等、外部専門機関の講師を招聘し、反社会的勢力に対応するための専門知識やスキルを習得することが効果的である。

スキルの維持・向上

また、外部専門機関を通じて、研修内容の妥当性・実効性を定期的に検証することが必要である。かかる研修は、反社会的勢力対応部員のスキルを維持向上する必要性・重要性に鑑み、少なくとも年に1回程度は行われることが望ましい。